【INTERVIEW】『Pandora』/ 武田理沙

武田理沙のデビューアルバム『Pandora』が8/8にリリースされた。
ジャンルも音圧もテンションも全てに大きな振り幅を持った巨大なスケールを持ったこのアルバム。
アルバムを聴き終えた瞬間に湧いてきた感情がどのようなものか自分でも理解できないまま「何かをしなければ」という衝動にとりつかれ、急ぎ彼女のライブに足を運んでインタビューをしたい旨を伝え、このインタビューが実現した。



急に安定した人生に絶望したんですよね

–: 東京に出て来たのはいつ頃になりますか?
武田理沙(以下、武田): 2011年頃ですね。本当は音楽やりたくて東京に出て来たんですけど、周囲には「就職するから」って言って出て来たんですよ。当時はドラマーだったので、バンドのドラマーとして世に出ようと思って……。
–: 当時はピアニストというよりドラマーという意識だった?
武田: ピアノは3歳からやっていたんですけど、楽譜を見なければ弾けない状態で。コード進行に頼ってもかっこよく弾けないので怖くて鍵盤を触れない状態でした。だから壁を突破するまではドラマーとして生きようと思っていました。
–: ピアニストの印象が強かったのでちょっと意外ですね。
武田: 普通のロックバンドを4つぐらい、ジャズバンドもかけもちで2年ぐらいドラムばかりやってましたね。
–: 正式もサポートも含めてそのぐらいだったんですか?
武田: 全部正式でしたね。セッションでご一緒した方に誘われてバンドやることが多かったです。
–: 即興でやるようになったのっていつ頃なんですか?
武田: 上京してから、とにかく色んなセッションに参加していました。まず名前を売らなければと思ってたんですけど、セッションが一番良いかな?と思って。錦糸町のPAPPYSというお店で週一でブルースセッションをやってるんですけど、最初にそこに飛び込んでドラム叩かせて貰ってました。その場に毎週来ていて、巻上公一さんと一緒にやったりしてる方が「君は面白いから、うちでやってるセッションや他のインプロセッションにも行って見たらどうですか?」って言われたのがきっかけですね。その方が主催しているセッションや庄田次郎さん、加藤崇之さんのセッションなど、ネットで調べて「インプロ」という名前がつくようなものは片っ端から顔を出してましたね。
–: ピアノを再開したのはどんなきっかけでした?
武田: その時に「実は私ドラムだけじゃなくてピアノもやってて…」と話してみたら「じゃあピアノやってみたら?」って答えが返ってきて、「ああ、今ならピアニストになれるかも」って思ったんですよ。それで徐々にドラムを減らしてピアノでの出演を増やすようにして、1年ぐらいかけて周囲の人の印象をドラマーからピアニストに変えました。
–: 学生時代から好き放題に楽器を演奏しまくるタイプと思っていたので意外ですね。
武田: 東京に出てくるまで「インプロビゼーション」とか「即興演奏」って言葉自体を知らなかったです。演奏している時に、「自分が一番いい状況」だと感じる時にそういう状態に近い気がしていたというか……今は即興演奏に対する考えは少し変わりましたが、大学でドラム叩いてた時に、演奏中にドーパミンが出過ぎて意識が無くなった状態で演奏してる事があったんですけど。でもアンケートでは「なんかドラムがすごかった!」って書かれてる事が結構あって。「もしかしてこれが『自分の音楽』なんじゃないか!?」って。私は信じるように音楽をやったら良いのかもしれない!って思って東京に出て来たんですよね。
–: ああ、当初のイメージ通りですね(笑)自分で常に適切な方向に舵を切ってる感じがします。
武田: 流れに流されている感じですけどね(笑)何とか落ち着くところに落ち着いた感じです。
–: その結果があのアルバムかと思うと感動的なものありますね。音楽やりながらやっていきたいって目的意識はどんなふうに持ち始めたんですか?
武田: 昔は大学卒業したら北海道の実家近くの病院に就職してそのまま人生終わるのかなと思ってたんですけど……例えば22で就職して死ぬまでの何十年間、私は何をして生きていけばいいんだろうかと。そこで過ごすんだったら、毎日矢面に立って生きていきたいと思って。急に人生に絶望したんです。
–: 何かに焼かれて生きる方向を選んだんですね。
武田: ご飯とか食べてる時に急にそう思ったんですよね(笑)
–: あのアルバムからはそういうものを感じたんですよね。ここに込められたエネルギーというか、何かを作って形にしようとする思いというか。そのエネルギーにショックを受けました。
武田: あのアルバムを聴いてもらった何人かの人にも「心を動かされた」という感想をいただきました。嬉しいです。
–: 2枚を通して聴いた時にもう身も心もガッタガタに揺さぶられたんですが、アルバムとして聴いて、ジャンルやテンションの振り幅を体験したのが大きかったと思います。
武田: 抽象的な話になってしまうんですけど、自分の感情だけで音楽を作っているところがあって……人間っていろんな人格があって一つの人格になっているというか。私もいろんな(方向性の)曲を作るのが全部違う人間がやっているような感覚があって。全部の人格に曲を作らせると10枚組ぐらいになってしまうんですよ。それで大まかに曲のタイプを2つに分けました。自分のポジティブな面が作った楽曲を1枚目に、ネガティブな面が作った楽曲を2枚目にまとめて。最低でも2つに分けたかったんですよね。
–: 音楽性というよりも楽曲を作った人格で盤が分けられてるんですか?
武田: そうなんです。ポジティブな曲の直後にネガティブな曲が来て欲しくなかったというか。私も作っている過程で曲の方向性がこんなにとっちらかるって想像していなくて。
–: そういう理由で収録される盤が決まっていたんですね。曲順を決めるときに一番気にかけた事って何ですか?
武田: 曲順は、通して聴いた時に自分でこれはバランスがいいなと思ったアルバムの並びを参考にしています。2〜3曲目にシングル曲を置いてひとしきり盛り上がったあと4曲目あたりで落として、それから小さな起伏を作りながら最後から2曲目辺りでまた前半とは違う空気感で盛り上がって終わるという感じです。どちらかというとディスク2の方が沿っていると思います。
–: タイトルの『Pandora』はパンドラの箱の『Pandora』ですか?どのような気持ちでタイトルをつけたか聞かせてください。
武田: パンドラの箱ですね。タイトル候補は「Pandora’s box」か「Pandora」の2つだけで、何故かこれ以外浮かんできませんでした。今回、内臓まで全部ぶちまけるくらい自分を曝け出した作品になったので、何かそのイメージに近いものを探していてこれになりました。自分の中に封じ込めているものは、自覚する分では良くないもの、知りたくないもの、感知したくないものがほとんどなんですが、それらを全部解放して、自己の中に残っているのが希望だけ、という状態にしたかったんだと思います。



どんなにそれっぽくしても作る人が違うと絶対そうならないからいいのになって

–: 今回の収録曲で、「NagaRaja」と「業(SoundCloud公開時のタイトルは「KARMA」)」が割と近い時期にアップされてますよね?かなり対照的な2曲だと思うんですが、近い時期に制作されていてもやはり別の人格が作ると作風がはっきり別れますか?
武田: そうですね。これは「人格」というよりは単なる「気分」なのかも知れませんが、ひどい時は日によって全く違う感じなので、その日の心境に近いものを同時進行でどんどん作っていって、完成間近になったら感情より「曲としてどう聴こえるか」を優先して仕上げるイメージです。「NagaRaja」なんですけど、私去年はライブがすごく忙しくて、8月ぐらいしか曲を作る時間が取れなくって、そこでぽつんとできた曲なんですよ。実をいうと江ノ島のイメージで作った曲なんですけど、2枚組にするとか、作った人格で盤を分けるとか考える前からああいう曲が作りたかったんですよね。
そしてあの曲、内臓エフェクターのバグがたっくさんあるんですよね。バグがかっこよくてそのままにしてるんですけど、ミックスダウンするたびに違うバグりかたして全然落ち着かなくて(笑)一番最初のメロディーのところも本当はあんな音じゃないんですけどあんな音になってしまったんです。
–: そういう揺らぎを意図的にやってると思ってたんですけどそうでもなかったんですね。
武田: 久しぶりに作業をするとDTMの操作の仕方を忘れていて、思い出そうとしながらおかしな使い方しているうちにバグりはじめたんですよね。そしたら面白い音になってたんでそのまま書き出してあんな感じに(笑)
–: 何かが降りて来た状態で作った曲なんですね。
武田: そうですね。でもすごく気に入ってて。「業」ができた時点で2枚組にして、2枚目の3曲目にしようと思ってたんですよ。元々John Zornの曲を意識して作ろうと思っていて、音階とかもそういう風に作っていたんですけど、MIDIピアノを即興で弾いたら全然John Zornじゃないけど「面白いのができた!」と思ってパソコンに突っ込んで他の楽器の音とユニゾンさせたりして作りました。
–: 当初の目標点とは違うところに着地したんですね?
武田: そういう感じで作った曲が多いですね。どれだけKing Crimsonっぽい曲作ったとしても、作ってる人が違ったら色々変わるじゃないですか。Crimsonっぽいけど何かが違うっていう。でもそこに明確なポイントがあるなと思うんですよ。
個人的には、人の真似をして作ろうとするのが一番作りやすいです。
(Francis) Poulencっぽいのを作ろうと思っていたのに途中から全然違うものになっていったり。
どんなにそれっぽくしても作る人が違うと絶対そうならないからいいと思うんです。



–: やってるうちにだんだん「こうした方が面白いんじゃないか?」って曲をいじり始める感覚なんですかね。
武田: 即興でピアノを弾いて作ってるんですけど、確かにChick Coreaになりきって弾いてるはずなんですけど後から聴いてみたらこっちのアレンジの方が面白いなってどんどん変えていくとどんどん違う方向に……。
–: なんとなくそうなってる人はたまにみますけど自覚的にやっちゃってる人ってのは珍しいですよね。
武田: 自分の不器用さとか雑な部分を活かして作っている感じですね(笑)自分が生真面目で器用だときちんとパクれてしまってたと思うので自分の精度とか正確性のなさに助けられている感じです。
–: じゃあ曲作りは 1)目標点を決めて 2)インプロで弾きながら 作っていくという手順なんですね。
武田: 作りながらいろんな音色を試しているうちにだんだん次の展開が浮かんでくるんですよ。そうなると後は早いんですけど、そうなるまでに時間がかかる感じです。先に音色から決めることもあるんですけどね。適当に音色だけ並べて適当にユニゾンさせて聴いてみたらアイデアが沸くこともあります。2枚目の「弟切草」がそんな手順でできていますね。適当にライブで使った音色で弾いていたら良い感じになってきました。
–: 「弟切草」は非常に音色が印象的な曲ですが、そういうルートで作られたんですね。
武田: 奇跡的にピンとくる音が見つかった感じですね(笑)
–: アルバム制作に2年ぐらいかかったというお話をうかがっているんですが……。
武田: そうですね。ただ、ここ半年でスパートがかかった感じなんです。実は仕事もライブもあまりせずに……このままじゃいつまでたってもアルバム制作が終わらない!って思って(笑)「業」を作ってから一気にいった感じですね。
–: そういう意味ではやはり「業」はきっかけの曲なんですかね。
武田: そうかもしれないですね。
–: ここ半年で作った曲ってどのあたりですか?
武田: そうですね……断片として作っていった楽曲を仕上げていったんですが……「嗚」「NagaRaja」「革命前夜」の冒頭、「ラスト・モーメント」以外はほとんどそうですね。
disc1の6曲目「Cursed Destiny」は、ソロのライブに映像をつけるっていうライブをやってたんですが、その時に映像を使って曲を演奏していくうちに「ああ、これ形になりそうだな」って思って作った中の一曲で……イゴール・コヴァリョフの「妻は雌鳥」ってアニメに曲をつけたんですが、その冒頭のメロディーを膨らませた曲なんですね。また、「寄生虫」なんですけど、アニメーション作家の久里洋二さんの作品で「寄生虫の一夜」(https://www.youtube.com/watch?v=mKdcQK2v3JQ)って作品があるんですよ。この映像に企画で曲をつけた時にこれも曲になりそうだなって。
–: 「寄生虫」はMVになってたやつですよね?すごくサイケな映像で……。
武田: 夢に出てきそうな感じですよね(笑)


MV「寄生虫」

–: ショッキングでしたね(笑)
武田: (笑)あの映像を見て私も今度MVもやってみたいなと思って。
–: 音楽に限らず色々自分でやってみる感じなんですね。
武田: 凄くイメージが湧いてきたので(笑)
–: 自分の中で興味が湧いたりイメージが湧くと形にせずにはいられない感じ?
武田: なんかわくわくします(笑)子供が新しいおもちゃ与えられたような感じですね(笑)


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『Pandora』/ 武田理沙
2018年8/8リリース
フォーマット:CD 2枚組 / デジタル配信
レーベル:MY BEST! RECORDS
カタログNo.:MYRD124
価格:¥2,500(税抜、CD)
【Track List】
Disc-1:
1. at daybreak,
2. Island
3. Pagoda 2018
4. Idle brain is the devil’s workshop
5. NagaRaja
6. Cursed Destiny -I have opened the Pandora’s box-
7. a time of thaw
Disc-2:
1. 鳴
2. 尋常に狂う
3. 業
4. 涅槃
5. 寄生虫
6. 弟切草
7. 孤高の厭世家
8. 革命前夜
9. ラスト・モーメント

作曲、編曲、録音、演奏、プロデュース:武田理沙
ミキシング:武田理沙、佐藤優介
マスタリング:中村宗一郎

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2018.8.8 12:00

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