【INTERVIEW】『WORKERS』/ Mulllr

workers

MOTORO FAAMの中心メンバー・Ryuta Mizkamiのソロプロジェクト・Mulllr。
bandcampで3枚のアルバムをリリースしてきた彼が、4thアルバムにして初のフィジカルとなる『WORKERS』を11/13にPROGRESSIVE FOrMからリリースした。
今までのアンビエント色の強い作品から今回のビート・ノイズの強い作品への変貌。
コンセプト色の強い彼の制作姿勢。
これらを読み解くテキストとなるインタビューを掲載する機会をいただけました。

『WORKERS』/ Mulllr
2015年11/13リリース
フォーマット:CD
レーベル:PROGRESSIVE FOrM
カタログNo:PFCD52
価格:¥2,000(税抜)
【Track List】
01. …and the World’s W___ O__
02. …and Late Rising
03. …and Son of the Dentist
04. …and Crowded Trains
05. …and Timecard Timecard
06. …and Checking Emails
07. …and Brunch Time
08. …and Unproductive Debate
09. …and Snoozing
10. …and Caffeine Poisoning
11. …and Huge Searchbar
12. …and Over Timeless
13. …and Dancing Alone
14. …and Excessive Drinking
15. …and Loss of Memory
16. …and Night in the Forest
17. …and Black Ceiling
18. …and Light Sleep
19. …and Light
20. …and Sleep Again
21. …and tex_
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作り手の文脈よりも受け手の解釈のユニークさの方がずっと重要と考えたい

新作「WORKERS」は、今までの作品からもある”Mulllr”ならではの鋭い電子音の反復、カットアップが緻密に構成されたサウンドはそのままに、1曲1曲ではまた違った表情を持った曲が並んでいるという印象を持ちました。それこそ一概に「電子音」と言ってしまってはいけない程、一音でも色々な表現があり、それが構成される中で各曲がまた違う表現を見せる中で、さらにその表現の幅が広がったという感じです。この辺は意識されましたか。
Mulllr(以下 M):ありがとうございます、今回は踊れる楽曲にしたいなと思って、なるべく立ってノリノリで体を動かしながら作ったんです。これはキャリアの中で初めてのことですね。ガクガクッ、ビクビクッビクって(笑)というのは冗談なのですが、前作までとの一番の違いは、各曲の長さが全体的に短くなってきていることかなと思います。前作までの10分を超えるような長尺のアンビエント楽曲では、極力少ない変化になるよう工夫していたのですが、その逆に、一曲中にめまぐるしく早い展開にして多くの情報を入れても、不協和している部分がなるべく無いようにしたくて、その点でより丁寧になっている面があると思います。
タイトルである『WORKERS』に現れているように、今作は「サラリーマンの1日」がコンセプトという事をお聞きしました。今回トータル21曲というヴォリュームですが、作品を通して聴くと1つの流れとして作品が完成されている印象です。今作の「…and Crowded trains」「…and Timecard timecard」と曲名にも現れていますが、それぞれの曲のコンセプトについても数曲可能であればお聞かせください。
M:アルバム全体を通して1曲の印象になるように、という所は前回から継続して意識しています。サラリーマンの一日が、…and として果てしなく何度も何日も繰り返されていくような円環構造にしたくて、タイトル、コンセプトがよりしっかりしたものになっていった感じです。「…and Crowded trains」、満員電車のギチギチ感。「…and Timecard timecard」、出勤しました「ウィーン・ガチャン」みたいな。ただ、その人の一日を淡々と、ごくごく単純にスケッチしていった感じにできたらと考えました。
あ、でも最近ってもうタイムカードじゃなくて電子化されてますね。「ピピっ」か、、(笑)
今回の作品のコンセプトに至った経緯は何だったのでしょうか。勝手な印象かもしれませんが、今までのMulllrの作品はどちらかと言うと記号の羅列的な的な側面があり、聞き手にコンセプトのヒントを与えるという事は無かったように思われます。
M:そうですね、分かりやすすぎるくらいのモチーフを意識的に使おうと思ったのは、MOTORO FAAMという名義で数年前に出した『…and Water Cycles』というアルバム以来かなと自覚しています。

ちょっと脱線しますが、音楽にかぎらず様々なアート作品って今コンテキスト9割、コンテンツ1割みたいな 価値の置き方になってしまっていると思うんですが、付随しているコンセプトや、制作者の名前やストーリーみたいなものに、私は興味があまりもてないんです。 「どんな見た目の人?」「男性?女性?」「どこの国?」「どういった素養がある?」「ジャンルで言うと?」みたいなタグ付けはできれば知らずにいたいな、というのが本音で。誤解でもなんでも、勝手に過大解釈や想像、妄想して楽しむ事ができれば、壁のシミも美しい絵画も、風の音も最新のダンスミュージックも、フラットに見えて、以外な面白さを発見できるのに、タグが一個つくたびに、一個面白さが減る気がするんです。作り手の文脈よりも受け手の解釈のユニークさの方がずっと重要と考えたい。

『…and Water Cycles』の頃、自分にも「タグ」がついてしまった事にも違和感を覚えて、以降、前3作まで、アートワークもタイトルも極力単純チープで無意味、記号性
を減らして自然現象や抽象概念に近づけられるかを意識してきて、小難しく考えず、良くも悪くもない、赤ん坊が初めて世界を見ているような、プリミティブな状態を極力匿名なままで作り出したいと常思っていたんです。

でもそれとは別に、いろいろなプロジェクトや、日々のちょっとしたタスクが膨大な時期があり、こういう生活の中で出てきた音が、ちょっと自己矛盾してきている感触があって「これってなんだろう?」と思った時に、忙しさからくるストレスみたいなものや、自分のエゴが、音に乗っかっちゃってきてることに気がついたんです。
『…and Water Cycles』と同じ作り方をまた始めた自分がいるなと。

何か忙しい感じの精神状態が今の自分なのならしかたない、これを「プリミティブ」と強引にして、音に乗っけてやってみよう、となるんですが、これは簡単に言うと私の憂さ晴らしで、快感とは程遠い。 それをコンセプトなしにリリースするのではなく、できれば隠したかった腹の部分を少し出して、聴いてくださる方と少しコミュニケーションの余地が欲しくなってきたんです。プリミティブでいたいけど、私たちは不完全だよね。大自然に還りたいけど、24時間戦い続けてるよね。どうしてかな?という素の自分が、メッセージみたいなものが、隠しきれなくなってしまったんだと思います。
変な質問かもしれないのですが、もし「Mulllrの1日」として作品を作るとしたらどのようなものになるでしょうか。日常をお聞きするようで申し訳ないのですが、イメー
ジだけでもお聞かせください。
M:丁度こちらのご解答と言えそうなのなものとして『WORKERS』を作れた面があるかな?と思っています。ステレオタイプな記号としての「ジャパニーズサラリーマン」という言葉を設定していますが、本当に言いたいことは、あくまで何かをする上での思考そのもの、日々の生活を送る中での私の「頭の中身」をそのまま写実しようと試みた部分が大きいので。

「…and Loss of Memory」以降はステレオタイプの「サラリーマン」ではなく、おそらく明確に私の一日になってしまっています。記憶を無くして夜の森を彷徨う毎日のMulllrですが、何故かはご想像で楽しんで頂ければ(笑)
Mulllrとしての作品は一貫して独特の作曲方法があると思うのですが、これはどのようにして生まれたものでしょうか。リズムや使い分ける楽器によって決められた既成の「ジャンル」の中の音楽とは違い、曲の構成や音の造りに非常に独特なものがあり、興味深いです。
M:私自身バンドでドラムを叩いた所が出発点のリズム野郎なのですが、途中クラシック音楽のメンバーや、ドローンミュージシャンとの共作を通し、いわゆるバンド音楽と全然違う事を学んだことで、「時間軸への疑い」を持つようになったんです。BPMってフレームワークじゃんって。ド・ミ・ソが快感を作るのと同じで、体を動かしやすい一定な太鼓が高揚感を作る、という音楽の普遍的な「正解」は一旦忘れて、音を使いはするが、音楽にはなっていないようなものもアリって考えるようになってから、BPMを意識せずに瞬間瞬間で脳が反応・錯覚するようなものを紡いでいきたい、不快だろうが不協和音もストーリーに入れたいなと思うようになり、Mulllrではこういう部分を継続して取り組んでいます。

リバーブが変化すると、お風呂場くらいの狭さからコンサートホールへ、今立っている場所が巨大化した感じにできたり、右から左にずっと音が流れていると自分が移動していたり、音程が変化するとぐにゃっと歪んたような印象になったりと、変化がでてきますよね。それを聴覚でなく脳全体で捉えてもらうことができれば、音楽としては難解でも、体感としては、タイムスリップしたり、パニックになったり、変形する建築物みたいな、非常にわかりやすいアトラクションとして表現できるはずで、クラブミュージックやクラシックの多くがこういう部分で面白いさを作り出していると思うのですが、この先の部分にもう一歩突っ込んで何かできないかなと試行錯誤しています。
Mulllr_live

今までに聴いた全ての音に影響を受けていると思います

独創的な故に、他の作品からの影響が想像しにくいという印象があります。影響を受けたアーティスト、作品などがあれば教えてください。
M:ヒドイ答えになってしまいますが、今までに聴いた全ての音に影響を受けていると思います。逆に何にも影響を受けなくなってきてしまったとも言えるのかもしれませんが、一周して日常の中の些細な事を過大評価して影響を受けられるように自己訓練しているイメージです。

恥ずかしい話、頭でっかちに「こういう事を考えてこれを作ってみたんだ」なんて話を親しい友人にしてみても、「それって◯年前に◯◯◯って人が同じことを言っているね」なんて事ばかりで、コンテキスト重視で影響を受けそうな優れたモノと、誰もやっていない境地を探し続けると、不幸な未来が待っているかも、と気が付いちゃったんです。何も作りたくなくなるだろうなって。

あくまで今日の私の場合ですが、いかに自覚的に車輪の再発明を楽しめるか、鈍感であるか、が重要な事かな?なんてことは時々考えますね。

「よそはよそ、うちはうち」ですかね(笑)

なので、文脈をマッシュアップ出来きたり面白く紹介できるタイプの方は、ジャンル問わずそのストイックさを尊敬しています。
Mulllrの音楽を説明する時に、「電子音」「ノイズ」といったワードを使用する事でちょっと難解に思われる方もいるかと思うのですが、そうとは限らないと思います。ご自身としてはどのように思われますか。
M:電子音楽・ダンスミュージック等どのジャンルと考えても破綻してしまっているし、比較的広義を扱う「エクスペリメンタル」という言葉にかろうじて仲間に入れてもらえるかな?と思いつつも、崇高な実験性も別段持ちあわせていないと自分の事を思っています。 どれかのジャンル音楽として聴いてみると不快さが半端ない。自分がリスナーでもおそらく、0点に近い評価になっちゃいそう。でも『WORKERS』にかぎらずMulllrのどうしてか0点にはならない、その数点の部分があって、とても魅力的だなと私自身はMulllrの事を思っています。
この作品の前にYui Onodera氏とのユニットReshaftとしてのアルバムのリリースがありました。こちらはよりダブテクノ、ミニマルダブ的な作品でしたが、Mulllrとしての作品との違いとして意識されましたか。
M:Reshaftは、私っぽくもなく、Yui Onodera氏っぽくもないものにしたい、という意識合わせだけが当初ありました。お互いに普段やらないアプローチを試していって、何か面白いものが出てくるならば良し、といった感じですね。結果としてお互いに、自分達が意識していなかった部分まで、自分の手癖や性質みたいなものが浮き彫りになってきて、非常に興味深い体験でした。

Mulllrは100%1人でコントロールできるので、よくも悪くも想定内で、個人的、フェティッシュな音になってしまうけど、Reshaftはもう少し余地があり、もう少し多くの方に届くのではないか?と感じています。
Mulllrとしての活動後、ライブを行われる事も増えたと思いますが、ライブでの違いは意識されていますか。
M:あまり意識していない、というよりできないんです。空気全力で読んでも上手くいかない(笑)

元々私はLiveを結構お断りしてしまっていて、時間と場所を共有する以上、ライブは演者と聴衆どちらも楽しくありたいとなると、先ほど述べた「正解」の事を考えないとならず、私のスタイルはちょっとこれの実現が難しいなとの思いが長年あったんです。

でも、近年は技術的な進歩でユーストLIVEみたいな存在が出てきたのは大きくて、 これならその人が一番リラックスできる状況でLiveを提供しやすくなってきたので、リスナーに辛さを強いず、私自身も楽しくやれるチャンスがぐっと高まったと感じています。多くないですが時々こういうライブはやりたいなと思っています。
最後にMulllr名義に限らず、今後の活動などについて教えてください。
M:Mulllrとしての活動はもちろん継続しつつ、 いろいろなアーティストと進めている別名義も少しづつ発表していけたらと考えています。 コラボは時間がかかってしまいますが、一人ではできない面白いものができると思うので、是非次回作も興味を持って頂けたら嬉しいです。

インタビュー/聞き手:小野寺(CMFLG)

2015.11.27 19:50

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