【REVIEW】CICADA『formula』



昨年ごろからか、バンドマンや音楽好きな人のみならず、普段ジャニーズなどのアイドルソングやアニソンしか聴いていないような友人にもCICADAをオススメしている気がする。そうした友人のなかから、ふっとこういう指摘をされたことがある。

「CICADAってSchool food punishmentみたいっすよね」と。

最初は何を言っているんだこいつ?と訝しんだが、ちょっと考えを巡らせてみると、なるほど、それはたしかにそうだろうと思えてきた。

CICADAはクラブミュージックとブラックミュージックを、School food punishmentはポストロックを、それぞれに汲み取っていたバンドだ。後者はより開かれたポップソングを生み出す道を選んだが、CICADAがメジャーシーンに進出して届けてくれたセカンド・アルバムは、彼らの手によるオルタナティヴ・ポップ、その雛形といえよう彼らなりのformula(式)を届けてくれた。

紅一点のフィメールボーカル城戸によるスウィートかつ艶のある歌声と歌詞世界は、彼らの音楽をR&Bらしいメロウな世界へと誘う魔力がある。だがもしも彼らの音楽をR&Bと一言で言い切ろうものなら、僕は全力で止めに入りたいと思う。彼らの音楽にはそれだけではない魅力がある。

彼らの音楽はいつもビートとの格闘にあった。前作『BED ROOM』ではロバート・グラスパー・エクスペリメント譲りのズレたビート感を取り入れたポップスを奏でていたが、前作の路線を広範なビートミュージックやベースミュージックを取り込み、並列に繋いでみせている。

「daylight」「スタイン」「ポートレート」「dream on」は声・ベース・ドラム・キレイなキーボードの音色による暖かなヒップホップ/R&B色が強い、彼らがインスパイアを受けているというThe Rootsを彼らなりに表現している。

「ゆれる指先」はスローなBPMのトラップ、「INFLUX」「都内」はサブベースやシンセベースと間のとり方からダブステップ、「stilllike」は軽やかな音像による2step/ドラムンベース、それぞれの楽曲にビートミュージック/ベースミュージックのDNAが忍び込んでいる。

もっとも驚くべきは「stand alone (blue)」の櫃田によるドラミングだ、2種類のスネアとバスドラムにハイハットだけを基本にしつつも鮮やかなビートでこの曲をダンサンブルに仕上げている。

だがこうした音音の影響源はほぼ見えることがない、彼ら自身の音楽からは彼らにインスパイアされた音楽の香りはほとんどしない(それだけでも非常に驚異的だ)。彼らがフレーズ・リフレインを主にしたミニマルな演奏を心がけていることで、城戸の歌声が自由にとらえるメロディラインやラップ・フロウをより強く押し出してもいる。抑制された演奏とボーカルラインの遊び心、このアンビバレントが彼らの音楽にとっての武器なのだ。

こうしてみると、彼らの一番の魅力は、彼らが良いと思えるものをしっかりとやりきろうとする気概にあると言ってもいい。今作ラストの曲「dream on」で歌われる「tofubeats PARKGOLF Licaxxx ikkubaru 上質な音楽をドロップするニューフェイス セルアウトから離れた本物を辿る」という信念そのままに、トリップホップを入り口にしたベースミュージック/ビートミュージックへの愛情と城戸の歌声を織り交ぜた、彼らだけのオルタナティヴ・ポップを形にしている。

CICADAとSchool food punishment、両者を同じように捉えた友人は慧眼だろう。とあるジャンルやサウンドから帯びてくるヒストリーやあるべき形を、一足飛びで別の質感へと変換していく、そんな才覚と気概を持つバンドは非常に希有であり、好きな音楽のなかから、シームレスかつタイムレスなポップソングを生み出そうと試みている。その意味でCICADAは、孤高なる個性を持ち合わせる度胸と可能性を示したといえそうだ。


(上記曲は収録されていませんが、とても良い曲なのでぜひに)




2016.11.15 22:00

カテゴリ:REVIEW タグ:,