【REVIEW】This Deep Well / MIEL ep



Zoom Lensなどいくつかのレーベルからのリリースがあったバルセロナのローファイ・ユニット、This Deep Wellが自身のsoundcloudから新作を配信している。MIEL epと題された5曲はいずれもざらついた音響に風変わりなコードとメロディーが印象的な作品だ。

1.Dinner Party Contestant
例えば80年代の英国インディーレーベルの7インチのような、ある種のフリーフォークとシンセポップをミクスチュアに奏でるアプローチ、朴訥としたヴォーカルにハンドクラップを多用して四つ打ちに落ちないリズムトラック、パッド系のシンセサイザー。メジャーコードで転調を繰り返し、それを追いかけるようなメロディー。ローファイ感覚を詰め込んだ1曲からこのepははじまる。

2.to to five
かなり粗いギターにフリーフォームのシンセリード、突如あらわれるピアノのアルペジオ、そのままストレンジミュージック的なメロディーに乗せてトラックは中盤に突入する。再び粗いギターのダウンストロークがはじまると、シンセベースにハイハット、コードチェンジの合間を縫ってユニゾンのヴォーカルは高低差の大きなメロディーを紡ぐ。何段階も展開していく様子が美しい。

3.lisses lever
ディレイの効いたバックトラックが淡いヴォーカルに置き換わる瞬間がとても印象的。シンプルに刻むハンドクラップと転調を繰り返すコード、浮遊感と遊び心がバランス良く収まっている。淡くとても難しいアプローチだと思う。彼らはそれを場面の切り替えの見事さとストレンジコードによって軽々と乗り越えているように感じる。

4.Mistakes
彼らにしては珍しくマイナーコードが絶望を描く瞬間がある。ゆっくりと下降し少しだけ上昇するコードとメロディー。中盤のブレイクを断ち切る淡いメロディー、バランスを崩しそうなくらいの上下動にかかわらず、かろうじてバランスをとるとても不思議な曲。Robert Wyattを連想するアプローチだ。

5.Banano Kesp
最後のトラックはかなりバンド寄りの楽曲だが、ここでもシーンの切り替えは見事。突如あらわれるアコースティックギターのストロークも、ローファイリズムトラックも、不穏なコード進行は中盤、次第に大きく成るオルガンのコードアプローチに集約されていく。その浮遊感はとても素晴らしい。エンディングは変拍子やフリーフォームのピアノも登場して、一層ストレンジミュージックの度合いを高めていく。

これまでのZoom Lensから発表された一連の作品や、自身のsoundcloudの作品と比べると、単なる寄せ集めというよりも一定程度、音に方向性を感じる一貫したコンセプトを感じる。そのために切り捨てた要素もあろうと思う。例えばヴォーカルが明確にパートを受け持つことで失うストレンジ感もあるだろう。その一方、そうすることでフリーフォームに切り替わる瞬間の見事さや、特異なコード進行とメロディーの関係を引き立たせることに成功している。そうしたアプローチを追求したことが結果として、統一感のある作品に仕上がった。

テキスト:30smallflowers(@30smallflowers

2015.12.24 5:10

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