【REVIEW】ノートブック / ヘントナー大佐(OMOIDE LABEL)



匿名性の高い音色をチョイスしながら、JUKE/FOOTWORKの流れを汲んだリズムトラックとミックスで安定した作品を発信し続けているヘントナー大佐がOMOIDE LABELから新作を発表した。倍速側のBPMに接近しているように感じたOMOIDE LABELのコンピ「JUKEしようや」収録トラックと、従来のTea-Under Musicなどいくつかのレーベルを通じて配信されているサウンドが入り交じりつつ、リスニング性の高い作品に仕上がった。

1.ロボット
ハードフロア寄りのキックにアタックを削った電子音、303以降のベースライン、不意に場面を変えて挿入される不協音のループから徐々にchiptune的なフレーズに流れ込んでいく。コンピ収録トラック同様に倍速側に寄ったBPMからスタートするが、エレクトロを基調にしながら徐々に落としていくアプローチ。少ない音数で構成されているがトラック数は多く、シーンの切り替え方がとても美しい。

2.交差点
エレピを連想させるパッド系のコードラインが淡く響き、スネアとキックがこれを支える。静かにあらわれるアンビエンス交じりの低音がパンを左右に振る中で、細かく刻まれたJUKEマナーのハイハットのがスネアに呼応して徐々に上モノとリズムトラックの比重が反転していく構成に引き込まれる。この比重の対比がタイトルを連想させる所は興味深い。また、静謐なエンディングは見事だ。

3.反射
前のトラックからの流れでアンビエンスの効いたバックトラックが全体を覆うが、より前面に出されたハンドクラップにGORGEを思わせるタムがアブストラクトさを打ち出している。ここでもやはり音色の分け方が見事だ。FOOTWORK JUNGLEに向かい過ぎないアプローチで、気づくと遅めのBPMで拍をとっている事に気づく。

4.呼吸
変拍子が印象的なフレーズからはじまり、エコーの効いたリズムトラックがこれを取り囲む。中盤に向かうに従い、音は徐々に削ぎ落されていく。この両要素が次第に一つに納まっていく。メタルパーカッション的なアプローチにノイズがまざり、初期インダストリアルを思わせる作りでトラックを終える。

5.落ち葉
ここまでの流れからは意外にも思われるこのトラックだが、ランニングベースにシンプルなピアノの少ない音数で美しい和声を切り開いていく様は、Tea-Under Musicなどでも見られた安定のアプローチに音楽的な豊かさが加わった興味深い構成だ。ここでも倍速のBPMを見据えつつ、照準が遅めにとられているように感じた。その配置の仕方や静謐さとのバランスがやはり見事だ。

「JUKEしようや」で見せたある種の派手さはここでは比較的排除されている。その一方で垣間みる美しい和声展開、また一つ印象的だったのは音圧が極めて抑制されているという事。これはとても新鮮なアプローチであると感じた。リスニング系エレクトロ的な穏やかさが曲のタイトル名とも相まってこうした印象を強く受けた。

テキスト:30smallflowers(@30smallflowers

2015.10.21 8:25

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